『　　わたしのジゼル！　　―　（３）　―　　』

 

 

 

 

 

 

 

 「　　はい　お疲れさま　〜〜　　」

ダンサー達は　優雅なレヴェランスでその声に応えてから拍手をし　―　朝のクラスが終わった。

 

「　ひゃあ〜〜　・・・　あっつ〜〜〜〜　」

「　明日っからタオル　もう一枚もってこようかなあ〜〜　」

「　あ〜〜〜　この靴、もうダメだ　・・・　いててて・・・　」

「　ねえ　○○○って〜〜　今日　やってるっけ？　」

「　さあ・・・？　定休日って　・・・　あ　スマホでみようか〜　」

 

解放感からダンサー達は皆　すこし声高でそして自然と笑顔が弾けている。

「　あ〜〜〜　アタシも靴、買いにゆくよ〜　」

「　じゃ　一緒に行く？　」

「　ウン♪　　あ　ちょっと待って　・・・　　フランソワーズ〜〜〜？　」

目のクリっとした小柄な女性が　スタジオの中をきょろきょろしている。

「　ん〜〜〜？？　　あ　いたいた〜〜　　フランソワーズ〜〜　ねえ　帰りにさあ〜〜　 」

彼女は　隅っこでポアントを履き替えていた女性の側に飛んでいった。

「　ねえ〜〜　フランソワーズ　〜〜〜　」

「　・・・　っと。　この靴はまだ履けるわ　・・・　これで　・・・　」

「　ねえ　ねえ〜　帰りにさあ〜〜　」

「　今日の自習はこれで持たせて・・・　　ちょっと痛いけど・・・　なんとか　・・・　」

「　？　フランソワーズ〜〜　あのね　帰りにポアント買いにゆかない？　」

「　・・・　えっと。　空きスタジオ、借りなくちゃ・・・　

　音　・・・　しっかり聞いて　・・・　それで　・・　」

金髪の彼女はなにやらぶつぶつ言いつつ、トウ・パッドを詰め込んだり　あれこれポアントを

履き替えたりしている。

「　もしも〜〜し・・・　フランソワーズ？　　聞こえてます？　」

　とんとん。　ついに彼女は金髪女性の肩をちょいちょい・・・とつついた。

「　―　　はい？？　　　あ　・・・　みちよ　・・・　」

やっと碧い瞳がこちらを見た。

「　・・・　フランソワーズ　・・・　大丈夫？　」

「　え　・・・　なに　が　」

「　ず〜〜っと呼んでたよぉ〜〜　　ま　いっけど。　　

　ねえ　帰りにさあ　ポアント買いにゆくけど・・・　一緒しない？

　アタシ、今のクラスで潰しちゃったんだ〜　今週は持つかな〜〜って思ってたんだけど〜〜　」

「　あ　・・・　わたしも ・・・　」

「　そう？？　じゃあさ〜〜　よかったら一緒しな〜い？

　そんでさ〜〜〜　帰りにちょこっとお茶　しよ〜よ〜〜〜　」

みちよはくいくい・・・彼女の手を引っ張った。

小柄な彼女は　フランソワーズとバーがお隣さん。　全然タイプが違うのだが

さっぱりした気質のみちよとは気が合って、ずっと　＜　仲良しさん　＞　なのだ。

他愛のないおしゃべりだけじゃなく、グチを言ったりこの頃はわりと真剣な話なんかもする。

フランソワーズにしてみれば　貴重な女の子のトモダチ　なのだ。

「　ね〜〜　　アイスでもさ〜食べてゆこうよ〜〜　」

「　え・・・　う〜〜〜　」

すぴか達みたいな彼女の誘いに　でも　フランソワーズの心はぐらぐら揺らぐ。

　

　　　　う〜〜〜〜　・・・　行きたい　・・・！

　　　　みちよとおしゃべりして　スウィーツ食べたい〜〜〜

 

　　　　　　　けど。

 

「　ね〜〜　ちょっとだけでもさ〜〜　」

「　あ 　あの・・・　ごめんなさい　・・・ わたし  自習しなくちゃならなくて  」

「　自習って　・・・　あ　『　ジゼル　』　の？　  え〜 なんで〜〜　 」

「　・・・　  だって 全然できないんですもの  　」

「　？　  そんなこと ないよ〜 　前にコンサートで踊ったよね？　『　ジゼル　』のＶ

　（　ヴァリエーション　）　上手だったよ  フラン？  　」

「　 ううん  だめなの  ・・・　」

「　センセのリハ　あった？　ダメだって言われた？　」

「　あ　ううん　・・・　まだ見ていただいてないの。　でも　全然ダメ・・・　」

「　 そうかなぁ〜　 　あんまし根を詰めないほうがいいよ〜  　」

「　こんをつめる・・・？　」

「　あ〜　わかんないか〜　う〜ん　・・・　めっちゃ頑張っちゃうっていうか〜　」

「　あ　・・・でも　頑張らないと〜　」

「　だからさあ〜　テキト〜にってこと。　あ　・・・　ナイショね？　 」

「　うふ　・・・　あ　ありがと　・・・　ね　お茶、また今度誘って？　 」

「　もっちろ〜〜ん♪　　じゃ　・・・　まあ　自習がんばって　」

「　ウン　・・・　メルシ・・・　」

ひらひら手を振って　みちよは帰っていってしまった。

 

   　　ごめんね　・・・　みちよ　・・・　気を使ってくれてありがとう

 

「　―　　さ。　　やらなくちゃ　・・・　」

きゅっと口元を引き締めると荷物をもってフランソワーズは空いているスタジオに移動した。

「　あの〜〜〜　Ｃスタ、使ってもいいですかあ　 」

事務所にちょっと声を掛ける。

「　え？　え〜と・・・？　　はい　どうぞ、１４時くらいまで空いてますよ　〜　」

「　ありがとうございます。　」

ぺこん、とお辞儀をして　Ｃスタジオに入った。

 

　カツン。　　ポアントの足慣らしをしてからセンターに立った。

 

「　・・・　うふ　・・・　いつもの稽古場より狭いけど　自習するには十分よね　」

ＭＤをセットして　音をう〜〜んと絞った。　　

「　ともかく。　一幕のヴァリエーション、　しっかりキメなくちゃ。　 」

下手　奥でプレパレーション　・・・　

〜〜〜　軽快な音と一緒に１７歳の恋する乙女が踊りだす。

 

　　・・・　アラベスク〜〜　パンシェ〜〜〜　　っと　・・・

 

振りはもうしっかり覚えた。　いや　この振りならばずっと昔、そうあのころからもう

身についている　・・・　はず。

 

　　で　　ピルエット〜〜〜　ダブル　ダブル〜〜　・・・・っく　・・・　

 

アンデダン・ピルエットの二回目が回りきれなかった。

「　！　　もうちょっと速く回らなくちゃだめなのかな・・・　ああ　やっぱりわたし・・・

　音の取り方が遅いのかしら　・・・　」

ぶつぶつ言いつつ　音を止め、またやり直す。

 

　　〜〜〜〜　♪♪　　明るい音楽と一緒に　フランソワーズも軽やかに踊りはじめる。

 

「　・・・・っと！　　なんとか　・・・　で　・・・　ふんふ〜〜〜ん　」

ちょっとスカートの端を摘み　（　つまんだつもりで　）　バロネ　〜〜〜の連続で

舞台を横切ってゆく。　　ここはこの踊りでの　＜　見せ場　＞　なのだ。

「　・・・・　あ　っ　　・・・　落ちちゃったあ　・・・　う〜〜ん　」

たた・・っとプレイヤーのところに戻り、音を戻す。

「　もう一回　・・・！　　あ　　やだ・・・　リモコン、使えばよかったんじゃない・・・　」

床に置きっぱなしのリモコンを拾おうと　屈みこんだ。

 

　　―　　と　・・・・

 

「　フランソワーズ〜〜〜　　いいわよぉ〜〜　音だして　〜　」

 

「　！？　　・・・・　」　

突然、　でも　まったくごく普通に当たり前に聞こえてきた声に　フランソワーズは固まった。

「　・・・　う　・・・　そ　・・・？　ナ　・・・　ナタリー　・・・？　　」

「　ねえ　どうしたの〜〜　」

「　・・・　あ　　え　　ええ　・・・・　」

手元に視線を落とせば　―　　目の前には旧式の大きな機械があった。

 

　　　こ　・・・れ　・・・！？　　だってたった今までＭＤプレイヤーだったわよね？

　　　・・・　でも　これ。　　知ってる　わ　・・・

　　　知ってるどころか　　ずっと使ってたわよね　・・・？

 

「　フランソワーズったら？　」

「　あ　　ご　　ごめんなさい　・・・　 」

　　バチン。　　大きな音がして　・・・　きゅるきゅるテープが回り始めた。

 

　　　そう　よ　　これ。　　　―　　テープレコーダー　・・・　！

 

〜〜〜　♪♪　　たった今まで聞いていた音楽が　・・・　雑音だらけで流れてきた。

「　・・・　あ　　あの　・・・　？　」

「　メルシ〜〜　」

スタジオのセンターでは　赤毛のダンサーが元気よく　ジゼル　を踊り始めている。

「　・・・　な　　ナタリー　・・・　？？？　　う　そ　・・・　」

「　え？？　　なに？？　」

ピルエットしつつ彼女がどなった。

「　あ　・・・　う　ううん　・・・　なんでも　　　ごめん　・・・・　」

フランソワーズはその場に腰を下ろした。

手が旧式の　でも　とてもよく知っている機械に触れる。

 

　　　　・・・　終わったら　・・・　止める、　のよ　　ね　

　　　　ちょん、と触れる、のじゃなくて　・・・

 

赤毛の娘はテクニシャンなのだろう、バロネの連続もきっちりと決めてラストの急テンポでの

ピケ・ターン　で　きちんとマネージュしている。

「　・・・　わあ　　ナタリー　・・・　こんなに上手だった・・・　け？　」

〜〜〜　♪♪　　　ぱっとポーズを決めて　踊りが終わった。

「　！　　いっけない　・・・　」　　

　バチン。　　フランソワーズは慌てて機械を止めた。

 

「　〜〜〜〜　ふぅ〜〜〜〜　・・・　あっは　・・・　一か所　・・・　落ちた〜〜　 」

赤毛のダンサーは　大きく息を吐くと　バタン　・・・と後ろにひっくりかえる。

「　！　　だ　大丈夫　？？？　　 」

「　は　・・・　あ　〜〜〜　やっぱ　ジゼル　はキツいわねえ〜〜　」

「　・・・　で　　でも　とっても上手　・・・　」

「　あら〜〜〜　アリガト。　あなたの十八番を踊って褒めてもらえるなんて〜〜〜

　メルシ〜〜〜　フランソワーズ　・・・　」

「　い　いえ　・・　でも　本当に上手だったわ　 」

「　そ？　アナタに負けたくなくて一生懸命練習したの〜〜　　なんて　う　そ　♪　」

「　え　？　」

「　い〜〜まの？　　私　ぽろぽろこぼしてるんだよ？　気がつかない？　」

「　え　・・・　あ　　・・・　あの　・・・　アンディオール・アンデダン　のところ・・・

　二回目がシングルだったかも　・・・　」

「　あたり〜〜〜　　ふふふ　・・・・　やっぱムズカシイ〜〜〜〜

　さ　　今度はアタシが音出しするからさ〜〜　フランソワーズ　踊ってよ。　  」

「　え　・・・あ　わたし　・・・　」

「　ほらほら〜〜〜　順番にやろうよ〜〜〜　」

「　あ　・・・　でもね　なんか上手く踊れないのよ　」

「　ま〜たまたァ〜　そ〜んなこと言ってないで〜〜　　いい？　音　出すよ〜〜〜　」

「　・・・　わかったわ。　」

なんとかなるだろう！　そんな気持ちでフランソワーズは稽古場のセンターに立った。

 

　　　　あ　　・・・・？　　さっきまでわたし　Ｃスタにいたのに・・・

　　　　ここは　　ああ　ああ・・・！　　あの頃　・・・　ナタリーと一緒に

　　　　レッスンに通っていたスタジオだわ　！

 

見上げれば高い天井に見覚えのあるシミを見つけたし、レースのカーテン越しには

歩道が見え　石畳の道を行き来する人影がうつる。

 

　　　　・・・　ああ　　ここは　・・・！

 

「　音　出すよ？　」

「　え　ええ。　　　はい　どうぞ　 」

 

　〜〜〜〜　♪　　　明るい音楽と一緒に　フランソワーズは踊り始めた。

 

　　　　わ　・・・あ？　　なんて身体が軽いの？

　　　　・・・　うわあ〜〜〜　この音で　このテンポで

　　　　きゃあ〜〜　足が喜んでる　身体が歌ってる〜〜

 

　　　　そうよ　！　　わたしは　　ジゼル　・・・！

 

最後のピケ・ターンも今までで最高にタイミングよく音に乗った。

 

　　♪♪！　　　バチン。　　大きな音と一緒に音楽が止まった。

 

「　わ〜〜〜　さすがだね〜〜　フランソワーズ〜〜〜　　」

「　・・・　は　　・・・　ふぅ〜〜〜　ちょ　ちょっと　飛ばしすぎた　かも　・・・　」

「　そうなの？　でも　すご〜〜い〜〜〜　　」

「　・・・　で　も　息　あがったぁ・・・　　あ　ポアント〜〜　潰れたかも　」

「　あは　ジゼル　踊るとさあ　左ばっかり潰れるよねえ　」

「　ふふふ・・・・　そうねえ　・・・　ちょっとパッドを詰め替えるわね。　

　ナタリー、どうぞ？　　　あ　音　出す？　」

フランソワーズはスタジオの隅に戻り　テープレコーダーの側に座った。

「　あ　ありがとう〜〜　　う〜〜ん　それじゃ　二幕のさ　ソロのところ　　いい？　」

「　始めのとこ？　」

「　ウン。　」

「　オッケ〜　ちょっと待ってね　・・・　あ　これでいいかな〜　　ねえ　始めるわよ？　」

「　・・・・・・　」

「　？　いいかしら？　」

 

　　返事がない。　ふ・・・　っと　静寂に気がつき振り返ると。

 

そこにいたのは　　鏡の中の自分　　だけ。　不思議そう〜な自分の顔がこちらを見つめている。

「　・・・　あ　・・・？　ナ　　ナタリー　・・・？　」

 

　　　　　　　　え　・・・？　　う　・・・・　そ　・・・・

 

驚いて視線を戻せば　古ぼけた機械の代わりにスマートなＭＤプレイヤーが光っていた。

「　なんで？？　だってわたし・・・　たった今　テープレコーダーを操作してたのよ？

　それで　バチンって開始して　・・・　」

震える手を伸ばし　そ・・・っとスイッチに触れた。

　〜〜〜♪　　　なめらかな音が、きちんと編集された音楽が流れだした。

もちろん雑音など混じっていないし、本番でも使える音だ。

「　・・・　二幕の　・・・　ジゼルのソロ　・・・　ナタリーが出してって言った音　・・・

　ナタリー？　　ねえ　音、出したわよ？　　踊って　・・！　」

 

　・・・・　・・・・　誰もいない空間に　音楽だけが流れてゆく。

 

鏡の隅っこには　　泣き出しそうな自分自身の顔があった。

「　・・・　夢　だったの？　　だって　だって　たった今、踊ったのよ　わたし？

　そうよ　軽々と笑って　・・・　小鳥みたいに軽く　・・・　ねえ　フランソワーズ・・・　」

フランソワーズはのろのろと立ち上がるとセンターに進み出た。

「　・・・　ナタリー？　それじゃ・・・わたしが踊るわ　・・・

　見てて？　　ねえ　　あなたの代わりに踊るから　・・・　　ね？　」

曲の途中から　―　彼女はゆっくりと踊り始めた。

『　ジゼル　』　第二幕、　ジゼルのソロ。

死んでウィリーとなったジゼルが　女王・ミルタに呼び出され墓の中から浮かびあがり

踊り始める場面だ。

 

　　　ああ　！　　重い　・・・　！　　こんなの、わたしの身体じゃないわ！

　　　・・・　さっきは　　こんなじゃなかった・・・！

 

　　　ア・ラ・セゴンドに　脚は軽々とあがったわ　　ピルエットは何も考えなくても

　　　くるくる　・・・　回れたのに　・・・

 

　　　ああ　　ああ　　重い　…！　　こんな脚　こんな腕　・・・　わたしじゃない！

 

　どん。　　曲の途中で彼女は床に崩れ落ちた。　そして自分自身の身体をじっと　＜　見た　＞

 

「　そう　・・・ね。　この脚　この腕　・・・　この身体。　機械のぎっしり詰まった

　ツクリモノのこの身体。　　フランソワーズ・アルヌールは　もういないの。

　わたしは　―　　サイボーグ　・・・　ゼロ　ゼロ・・・スリー・・・　」

ぱた　ぱたぱた。　　涙が稽古場の床に水玉を作って落ちた。

「　そうよ　・・・　わたしの生きていた時間は　もうとっくに終わってしまったのよ。

ああ　ああ　　あの頃　・・・　本当のわたしが生きていた時　・・・　」

 笑って 笑って ただ 好きなことだけに夢中だった日々　―  

それなりに 小さな悩み事はあったけど 踊って汗を飛ばせば イヤなこと なんかみ〜んな消えていた。

そして　  明日も 明日も 明日も そんな日々が続くと何の疑いもなく信じていた日々・・・

 

　    もっと 軽く踊れたわ　ええ　そうよ。

　　　 アンディオール  アンデダン の連続ピルエットは ダブルなんて軽く入ったし

　　　ふざけてトリプルを入れて叱られたっけ

　

　　　「　フランソワーズ？　　それはエレガントじゃないわ　」　って！

 

　　　 恋するジゼル は わたし自身だった わ　　気持ちはとってもよくわかったの。

　　　だから　腕も脚も自然にジゼルになって踊れたのよ・・・

 

　　　なのに。　　―　   今のこの重たい身体 は   なに？？

 

「　こんなの。　　　わたし　じゃない　・・・　わたしじゃないわ！　」

どん。　　重い足が、見た目はつるりと美しい足が床を叩いた。

 

　ぽ〜〜ん　・・・　　どこかで時計の音がした。

「　！　　いっけない　・・・　もうこんな時間　・・・！　

　早く帰らなくちゃ！　　晩御飯の支度もしなくちゃ。　」

フランソワーズはタオルで顔を拭うと　大急ぎでスタジオを後にした。

 

「　・・・　あの〜　ありがとうございました   」

バレエ団を出る前に　事務所にちょっと声を掛けた。

「　 あら フランソワ−ズさん お疲れさま〜  　 熱心ね〜   」

事務所の人が笑顔で応えてくれた。

「　いえ　・・・　  もう全然できなくて　・・・　」  

「　 な〜にいってるの〜　がんばって。　ああ  でも貴女 おうち 遠いの大変ね　」

「　・・・　    え？  　遠い・・・？？　」

「　ええ。　毎朝　遠くから通っていらしてえらいなあ〜って思って。」

「　そ　　うですか　・・・？　　ウチは　・・・　すぐ　・・・　そば　・・？

　　あ〜　　  今日はお兄ちゃん　いえ  兄と待ち合わせしてるので　・・  失礼します〜  」

「　はい　さようなら〜　 」

「　ふうん・・・　？  　ねえ　・・・　彼女 お兄さん いるの？ 　」

事務所に戻った彼女に　同僚が声をかけた。

「　フランソワーズさん？　・・・　 さあ 　どうだったかしら　・・・　」

「　あまり聞かないわね〜　　あ　 もしかしたら ほら フランスから訪ねてきてる とか … 」

「　あ〜 そうかもね〜  　 」

「　彼女のお兄さんなら　きっとステキよね〜〜　やっぱ金髪碧眼でさ〜　」

「　ま〜たまた・・・しかし　旦那サンもイケメンだからね〜　ああ　いいなあ〜　 」

事務所はしばらく賑わっていた。

 

 

「　・・・　あ？　　・・・　ここ　・・・・　」

ふらふら … 　どうやって来たのか　―　  気がつけば 地元駅を 降りていた。

 

　　　　 …   ここ　　は　・・・　いつもの　駅　よね　・・・ ？    

　　　　　―　あ。  晩御飯の買い物 しなくちゃ　・・・

　

改札口を抜け駅前のロータリーに出て　花壇に建っている時計塔を見てはっとした。

「　！　　う　そ？　こんな時間？　　　きゃ〜〜〜　急がなくちゃ〜〜〜　」

大きなレッスン・バッグを持ち直すと、フランソワーズはばたばたと駅近くのショッピング・

モールにむかって足を早めた。

 

 

 

　　カチャ　カチャカチャ　・・・　　シンクの中で食器が音をたてる。

 

島村さんちではいつもと同じ時間に子供たちは　＜　ご馳走様　＞　をした。

「　おか〜さん　　　あにめ　みていい？　 」

「　宿題は終わったの？　」

「　とっく〜〜〜〜　」

すぴかはえっへん・・・と胸を張る。

「　それじゃ　・・・　あ　すばるは？　」

「　僕もとっく〜〜　」

「　それじゃ　どうぞ。　あ　仲良く見てね　」

「「　は〜〜〜い　」」

子供達はきゃいきゃい〜〜と　リビングに駆けていった。

 

　　　・・・　やれやれ　・・・　ご機嫌でよかったわ　・・・

 

フランソワーズはシンクの前でため息を吐いて　急いで洗いモノを片づけた。

 

 

夕方　―　お母さんが買い物袋を両手に下げて帰って着た時には　すぴかもすばるも玄関に飛び出してきた。

「　おか〜さ〜〜ん　お帰りなさ〜〜い〜〜　」

「　おか〜〜さ〜〜〜ん　」

「　はい　ただいま。　すぴか　すばる　・・・　」

「　ね〜ね〜　お母さん　アタシたちおじいちゃまのおむかえでがくどうクラブから帰ったんだよ〜」

「　おじいちゃまといっしょ〜〜♪　」

「　まあ　それはよかったわね。　・・・　よ　いしょ・・・っと　」

「　ねえ　ねえ　おかあさん〜〜　それでね　それでね〜〜　オヤツたべて〜〜

　しゅくだい　もちゃんとやったよ〜〜　」

「　しゅくだい、やった〜〜　あとね、＜　おんどく　＞　なんだ〜　おかあさ〜ん　 」

「　そ！　　それでね〜〜　　おか〜さ〜〜ん　しゅくだいでね〜〜　」

「　おか〜さ〜ん　今日ね〜〜　そろばんでさ〜〜　 」

子供ちはご機嫌でてんでに　＜　今日のほうこく　＞　をしつつ　母に纏わり付く。

「　はいはい　・・・・　よ〜くわかったから。　今はお母さんにこの買い物袋を

　キッチンまで運ばせてくれないかしら。　晩御飯の準備、したいのよ　　」

「　おやおや・・・　大変な荷物じゃなあ〜　　すぴか　すばる？　お前たちには

　お母さんのお手つだい、出来るかのう？　」

博士が　玄関ホールに顔をだし子供達を上手く誘導してくれた。

「　できるっ　」

「　よしよし・・・それじゃ　お母さんが持っているにもつを運んであげなさい。　」

「　はあい〜〜　お母さん、　アタシにかして〜　」

「　僕も　できる〜〜　　これ　もってく〜〜　」

「　あ　アタシがこれ！　　すばる　アンタは　こっち　 」

「　え〜〜〜　こっち　おかあさんの　れっすん・ばっぐぅ〜〜　 」

「　アタシが！　　ばんごはんのおかず、もってく〜〜　おやさいやらおにくや　」

「　僕も　僕も〜〜　ねえ　お母さん〜〜　僕　じゃがいも　むくから〜　」

「　すばるは　お母さんのばっぐ運ぶの！　」

「　僕も〜〜　おやさい〜〜　」

玄関先で子供たちはさっそくモメだした。

「　あらら・・・　二人ともそんな声ださないで？　

　じゃあね　レッスン・バッグはお母さんがもって行くから。

　こっちのお野菜の袋をすぴかさん。　それで　こっちのお肉とパンの袋をすばるクン。

　お願いできるかな〜〜　」

「「　うん　！！　」」

 

　　ず〜〜〜・・・・　ずりずり　　ず〜〜〜〜　　　子供たちはレジ袋を引きずっていった。

 

「　・・・　ああ　やれやれ・・・　　　　！　っと　急がなくちゃ・・・！　」

「　フランソワーズ？　　疲れただろう？　ピザでも取ろうかね・・・　」

博士がそっと耳打ちしてくれた。　

「　まあ　博士・・・　大丈夫ですわ、ちゃちゃっと作っちゃいますから〜〜　」

「　そうかい？　忙しい時にはなあ　適当に手を抜いてよいのじゃよ。」

「　ありがとうございます。　　うふふ・・・　チン！すればすぐですわ。　」

「　それなら　子供達を引き受けよう。　　食器でも並べさせておくよ。　」

「　まあ　お願いします。　」

「　よしよし・・・　すぴか　すばるや〜〜　」

博士はバチン！　と　ウィンクして子供たちを呼びに行ってくれた。

 

　　　う〜〜〜　・・・　ホントはピザでも取りたいけど・・・

　　　でも！　　ウチのご飯はちゃんといつも手作り　なの。

　　　・・・　わたし、　おかあさん　なんだもの！

 

ふう・・・　ちょっとため息して。　フランソワーズはキッチンへ急いだ。

 

 

 

「　お母さん　　ね〜〜　ね〜〜　今日ね〜　」

「　おか〜さん〜〜〜　」

晩御飯の後、アニメを見ていたはずの子供たちはいつのまにかお母さんのそばによってきた。

フランソワーズは　ソファでポアントにリボンやらゴムを縫い付けていたのだが・・・

「　ちょ・・・　　ほら　針があるのよ、気をつけて　」

「　あ〜〜　ポアントだあ〜〜　」

「　これ　・・・　お母さんのくつ？　」

「　ぶっぶ〜〜　　くつじゃないよ〜〜　ぽあんと　だよ〜〜　すばる！　　　ね　おかあさん！　」

「　ええ　　　あのね、お母さん　今晩中にいっぱいお裁縫しなくちゃならないの。

　ちょっと離れていてくれないかしら〜　」

「　・・・　はなれていれば　ここにいて　いい？　」

「　おはなし、してるだけなら　いい？　」

すぴかもすばるも　もじもじしつつもフランソワーズの顔をじ〜〜っと見ている。

「　あ　ほら〜〜　二人とももうお休みなさい、の時間よ？

　きちんと歯を磨いてきましょうね〜〜　」

「　・・・　う　　　うん　・・・　　いこ。　すばる・・・　」

「　う　　ん　・・・　」

すぴかはすばるの手を引っ張ってソファから降りた。

「　ちゃんと磨くのよ　」

「「　　ウン　・・・　」」

ドアの側まで行って　―　すばるがとてとて戻ってきた。

「　―　すばる？　　なあに。　」

「　おかあさん　・・・　にこってして〜〜〜　」

「　―　　え　・・・？　」

「　おかあさん　・・・　ちょっとこわいかお　・・・　」

「　　！　　　　　ごめんね　・・・　　これでいい？　すばる　」

「　わきゃ♪　」

フランソワーズは　笑顔で小さなムスコのほっぺにキスを落とした。

「　！　　アタシも〜〜〜〜〜〜　　」

だだだ・・・っとすぴかが走ってきた。

「　はい　すぴか　も。　」

「　うきゃきゃ〜〜〜♪　 」

子供たちは大ニコニコで　＜　おやすみなさい　＞　をした。

 

 

 

　　コツ　コツ　コツ　・・・　ちょっと重い足取りが玄関までやってきた。

 

「　ふう　・・・　やれやれ　　・・・　ただいま　〜〜　」

ジョーは　そっと玄関ドアのロックを解除した。

「　？　　フラン？　　今　もどったよ〜〜　」

いつも玄関のドアを開ければ　そこには彼の愛妻の笑顔が待っている。

どんなに遅くなった時でも　彼女は満面の笑顔で彼を迎えてくれるのだが　・・・

そっと彼が声をかけても　彼女の姿はどこにも見えない。

「　・・・　チビたちの添い寝でもしてるのかな　・・・　　　うん？　」

 

　ジョーの耳が　微かに流れてくる音楽を捕えた。

 

「　？　・・・　リビングからじゃないなあ　・・・　二階からでもないし？？

　地下　か？　　―　　あ。　　ロフト　か。　　フラン　・・・　こんな時間まで稽古してる　のか？　　　」

ジョーは鞄を持ったまま　地下への階段を降りていった。

 

 

 

 

Last updated : 05,26,2015.           back        /     index       /      next

 

 

 

 

*********　　途中ですが

えっと・・・　ポアント　とは　トウ・シューズのことです〜〜

アレは消耗品です、リボンとゴムを縫い付けるのは

ダンサーの日常作業なのです〜〜　（　めんどくさ・・・　）

・・・　まだ　続きます〜〜〜